脚本家

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脚本家(きゃくほんか、英:Screenwriter)は、映画テレビドラマアニメ漫画ゲーム舞台ラジオドラマなどのオリジナル脚本を書く人のことを指す。日本では「脚」と「脚」が似ているために混合されやすいが[1]、小説や舞台劇、漫画など原作のある作品がドラマ化映画化時のシナリオ担当は脚色家(脚色者、adapter)として「脚本家」とは区別される[2][3][4][5][6][7][8][9]

概要[編集]

1947年に映画評論家の筈見恒夫は脚本家伊藤大輔を賛美しながらも、「脚色家時代の伊藤」の功績を特に評価している[10]

1978年1月14日のニューヨークタイムズによると、アーサー・シークマンは脚本家(screenwriter)業と共に、脚色家(adapter)業もしていた[11]

シナリオライターの須田剛史によると、日本では人気マンガや人気小説を原作としたものが多く見受けられてきており、日本における「脚本家」の実態は、原作作品の脚色するための仕事=脚色家である傾向にある[12]。例として、三谷幸喜は脚色担当経験が少なく、脚本家である[13]

脚本家が脚本を作り、別の脚本家や脚色家が手を加えていくことも「脚色」である。下記の「アカデミー脚本賞」とは異なり、「アカデミー脚色賞」は「原作のアレンジがいかにすばらしかったか」の賞である[1]

脚本家である三谷幸喜は、自身はオリジナルの脚本を書くことの方が多く、脚色はあまりやっていないことに触れながら、「セクシー田中さん」ドラマ制作前に日本テレビ側と「必ず漫画に忠実に」などの条件確認するも、「当初の条件は守られず」脚色トラブルから最終的に自殺に至った原作者芦原妃名子の訃報に沈痛を表明した。彼は、 アカデミー賞も脚本賞と脚色賞が分かれてることに触れ、「それぐらい違うものなんですよね、オリジナル脚本と脚色っていうのは」と述べている[13]

2018年に藤井淑禎立教大学名誉教授は、日本のドラマが1990年代半ばの「ドラマ全盛期」までのような「オリジナルシナリオ」ではなく、「原作もの依存」となっている現状について、「脚色家ばかりで脚本家が育たなくなってしまう」と懸念表明している。彼はシナリオ要素中の諸設定、筋、科白、テーマが「原作」由来である作品は、ドラマ自体には「シナリオ要素は点」「脚色点のみ」しか与えられないと嘆いている。藤井教授は原作依存の現状が続くと「脚色家だけいればいい」として、「脚本家不要論」が起きると懸念している。彼はオリジナルシナリオを書くからこそ、脚本家が尊敬されていたと述べてている。藤井によると1990年代半ばは原作のあるドラマは「わずか」であり、原作頼りの最初期は人気漫画、次にミステリー、最終的に人気ノベルなど「一般小説」もドラマ化されるようになった。ドラマ化作品ばかりになった背景には、ドラマ制作現場における「企画重視」の風潮における原作作品に対する人気への便乗があると述べている。これと共にドラマ制作側からすると既に「相応の人気」を得ている原作作品に比べると、新人や中堅脚本家のオリジナルシナリオでは人気が得られるかが「安心できない」という心情があるからと指摘している[9]

Library of Congress(アメリカ議会図書館)によると、「 The hitch-hiker」の脚本(screenwriter)はYoung, Collier(映画プロデューサーと兼任)とLupino, Ida(映画監督と兼任)、脚色(adapter)はJoseph, Robert Lが担当している[14]


脚本家への賞[編集]

アカデミー脚本賞[編集]

映画作品の担当「脚本家」への有名な賞として、アカデミー脚本賞(Academy Award for Writing Original Screenplay)がある。逆に小説や戯曲など何かしら原作のある作品はアカデミー脚色賞(Academy Award for Writing Adapted Screenplay)の対象となる。過去の映画の続編[15]リメイク作品[16]も「脚色」部門の対象である。

アカデミー賞には脚色賞と脚本賞があるが、1929年の第1回から「脚色賞」が設けられているのに対してが、脚本賞という新部門が設置されたのは1940年の第13回からである。理由としては、映画とは第一回当時は小説や舞台劇など「原作あり」が基本だったからである。「脚本賞」は第1回からあったが1957年の第29回で廃止された「原案賞」から派生したものであった[17]

2025年から脚本賞についてはオリジナルか脚色かを判断するため、最終版の撮影で用いられた脚本の提出が必須と改正された[18]

橋田賞新人脚本賞[編集]

橋田文化財団橋田賞と共に「橋田賞新人脚本賞」を設けている。「これから脚本家として放送業界に貢献する新人脚本家の発掘と応援を目的」のためにあり、応募資格は「プロの脚本家を目指している方」による「未発表オリジナル」に限られる[19]。同賞には、入選作と佳作があり、「該当なし」の時もある[20]

創作テレビドラマ大賞[編集]

日本放送作家協会とNHKが「第一線で活躍する脚本家を育てる」ために「創作テレビドラマ大賞」を共催し、毎年約1000本の応募作品が来ている。受賞作をNHKがドラマ化している[21]。応募資格は共作ではない「未発表オリジナル作品」である[22]

フジテレビヤングシナリオ大賞[編集]

フジテレビの「フジテレビヤングシナリオ大賞」は数々の人気脚本家を輩出してきた[23]。応募出来るのは「未発表のオリジナル作品」である[24]

TBSの賞[編集]

TBSは2008年1月から「次世代の脚本家を発掘・育成するため」にTBS連ドラ・シナリオ大賞を始めたが[25]、2017年の第六回が最後となった[25][26]。2011年3月にTBSドラマ制作部長の渡辺正一は第3回にて「個性のある、オリジナル脚本を執筆出来る新しい才能と出会えることを大いに期待しています。」と述べている[27]。2023年から再開する際に「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」とリニューアルした[26][28]

テレビ朝日[編集]

2007年7月からテレビ朝日は「テレビ朝日新人シナリオ大賞」を開催している。募集内容は「未発表のオリジナル作品」である[29]

WOWOWの賞[編集]

衛生テレビ局WOWOWは2007年から「WOWOWシナリオ大賞」を開催していた。そして、2018年から「優れたシナリオ作品を発掘し、新人脚本家の育成を通じて広く映像文化の発展に貢献することと、その映像化」を目的に、「WOWOW新人シナリオ大賞」も開催していた[30]。両方とも募集内容は「未発表のオリジナル作品」である[31][32][33]

しかし、第12回「WOWOWシナリオ大賞」、第2回「WOWOW新人シナリオ大賞」をもって、2019年2月にコンペティション開催の終了と発表した[34]

脚注[編集]

  1. ^ a b 【ホームメイト】脚色|映画用語辞書”. www.homemate-research-cinema.com. 2024年6月3日閲覧。
  2. ^ シンガーソングライターとアレンジャー(編曲家)のような関係 | WEB制作 | Web活用ブログ | 満丸(株)”. Web制作 富山 満丸株式会社 - Webを活用したビジネス支援. 2024年6月3日閲覧。
  3. ^ トラブル生じやすい「原作改変」問題 アニメ業界で起こっている「大きな変化」とは?”. gooニュース. 2024年6月3日閲覧。
  4. ^ ジョブズ氏の伝記映画、「ソーシャル・ネットワーク」脚色家が担当」『Reuters』、2012年5月16日。2024年6月3日閲覧。
  5. ^ 科学書院 / 『フランス映画作品辞典1929-1970』”. www.kagakushoin.com. 2024年6月4日閲覧。 “監督、助監督、製作会社、製作者、脚本家、脚色家”
  6. ^ 東洋の秘密 : 作品情報”. 映画.com. 2024年6月4日閲覧。 “アラビアンナイト物語からストーリーを借りてウーファ専属の脚色家ノルベルト・ファルク”
  7. ^ “Arthur Sheekman, A Screenwriter. And Adapter, at 76” (英語). The New York Times. (1978年1月14日). ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/1978/01/14/archives/arthur-sheekman-a-screenwriter-and-adapter-at-76-praised-by-critics.html 2024年6月4日閲覧。 
  8. ^ 脚色者を英語で訳す - goo辞書 英和和英”. goo辞書. 2024年6月4日閲覧。
  9. ^ a b 90年代テレビドラマ講義 - 50-51 ページ「原作依存の風潮」の項, 藤井淑禎 · 2018年
  10. ^ 映画五十年史 - 89 ページ 筈見恒夫 · 1947
  11. ^ “Arthur Sheekman, A Screenwriter. And Adapter, at 76” (英語). The New York Times. (1978年1月14日). ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/1978/01/14/archives/arthur-sheekman-a-screenwriter-and-adapter-at-76-praised-by-critics.html 2024年6月4日閲覧。 
  12. ^ 自己紹介”. 須田剛史 公式サイト. 2024年6月3日閲覧。
  13. ^ a b 三谷幸喜『セクシー田中さん』芦原さん訃報に沈痛 脚色の難しさ・原作者の思い・自身の苦悩も「全部投げ捨てたいと思う」【コメントほぼ全文】”. ORICON NEWS (2024年2月4日). 2024年6月3日閲覧。
  14. ^ The hitch-hiker”. Library of Congress, Washington, D.C. 20540 USA. 2024年6月6日閲覧。
  15. ^ アカデミー賞脚色賞にノミネートされたダニエル・クレイグ主演作「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」:オンラインの森”. hitocinema.mainichi.jp. 2024年6月6日閲覧。
  16. ^ 日本テレビ. “ノーベル賞作家 カズオ・イシグロ、アカデミー賞脚色賞にノミネート 黒澤明監督のリメイク作|日テレNEWS NNN”. 日テレNEWS NNN. 2024年6月6日閲覧。
  17. ^ アカデミー脚本賞の話題作、精緻な復讐劇が光る「プロミシング・ヤング・ウーマン」 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)”. forbesjapan.com. 2024年6月6日閲覧。
  18. ^ 2025年アカデミー賞に向け新規定が発表、アニメーション映画・作曲賞・脚本賞などに変更”. Branc(ブラン)-Brand New Creativity- (2024年4月26日). 2024年6月6日閲覧。
  19. ^ 橋田文化財団一般財団法人『一般財団法人 橋田文化財団https://hashida.or.jp/newface/2024年6月6日閲覧 
  20. ^ Themesbrand. “第31回「橋田賞」決定|PressWalker”. PressWalker. 2024年6月6日閲覧。
  21. ^ NHK. “次世代脚本家の登竜門!【創作テレビドラマ大賞特集】|番組|NHKアーカイブス”. 次世代脚本家の登竜門!【創作テレビドラマ大賞特集】|番組|NHKアーカイブス. 2024年6月6日閲覧。
  22. ^ 創作ドラマ大賞”. 日本放送作家協会. 2024年6月6日閲覧。
  23. ^ フジテレビ ヤングシナリオ大賞”. フジテレビ. 2024年6月6日閲覧。
  24. ^ 北村涼葉 (2024年2月5日). “第36回 フジテレビ ヤングシナリオ大賞”. コンテスト 公募 コンペ の[登竜門]. 2024年6月6日閲覧。
  25. ^ a b TBS『第6回 TBS 連ドラ・シナリオ大賞 | TBSテレビhttp://www.tbs.co.jp/rendora-scenario/2024年6月6日閲覧 
  26. ^ a b 次世代の脚本家発掘プロジェクト昨年に続き、第二弾始動!!「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE 2024」|TBSテレビ”. TBS Topics. 2024年6月6日閲覧。
  27. ^ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000003065.html
  28. ^ TBS『TBS NEXT WRITERS CHALLENGE|TBSテレビhttp://www.tbs.co.jp/tbsnextwriterschallenge/2024年6月6日閲覧 
  29. ^ 公開|エンタメラッシュ編集部プレスリリース (2023年11月29日). “【大賞賞金500万円!】第24回「テレビ朝日新人シナリオ大賞」開催決定”. エンタメラッシュ. 2024年6月6日閲覧。
  30. ^ 第1回WOWOW新人シナリオ大賞 最終選考作品決定 | ニュース | 株式会社WOWOW”. WOWOW. 2024年6月6日閲覧。
  31. ^ https://corporate.wowow.co.jp/news/pdf/080403_1.pdf
  32. ^ 第4回 WOWOWシナリオ大賞 募集要項 | コンテスト 公募 コンペ の[登竜門]”. compe.japandesign.ne.jp. 2024年6月6日閲覧。
  33. ^ https://corporate.wowow.co.jp/news/docs/170310_1kai_WOWOWshinjinshinariotaisyo_uketsukekaishi.pdf
  34. ^ 第2回WOWOW新人シナリオ大賞 地下アイドル業界を描く「父と息子の地下アイドル」が大賞受賞! - WOWOW公式オウンドメディア FEATURES!”. WOWOW. 2024年6月6日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]